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岡山地方裁判所 昭和59年(行ク)4号 決定 1985年9月27日

申立人(原告) 有限会社第一酒販

被申立人 久世税務署長

被告 津山税務署長

主文

被申立人は被告として本件訴訟を引き受けるべきことを命ずる。

理由

原、被告及び被申立人に対する審尋の全趣旨及び本件関係記録によると、原告は、かねて肩書住所地を酒類販売場として被告から酒類販売業免許を受けていたものであるが、昭和五七年六月二一日本件訴訟を提起した後、同年八月三〇日付で酒類販売場移転の許可申請を行い、昭和五八年三月七日付で被申立人の許可を得て、その酒類販売場を岡山県真庭郡久世町久世四四六番地へ移転したことが認められる。

ところで、被告及び被申立人は、酒税法一六条による酒類販売場移転の許可の性質は、移転前の販売場(以下「旧販売場」という。)の免許を消滅させ、移転後の販売場(以下「新販売場」という。)について免許を付与する処分にほかならず、ただ申請者が酒類販売業者であり、人的要件を充足していることを考慮し、申請者及び税務当局の事務手続の負担を軽減するため、本来行うべき免許の取消し及び新規免許の付与という手続を採らず、移転の許可という簡易な手続で処理しようとしたものであつて、移転の許可があつた場合には旧販売場での免許は消滅し、これとともに免許に付されていた条件も当然消滅し、新販売場での免許はこれとは同一性、連続性を欠き、免許条件も新販売場における必要を考慮して新たに設定されることとなるから、被告と被申立人との間に本件条件解除拒否処分についての権限や義務の承継はなく、原告の本件訴訟引受けの申立ては失当である、と主張する。

本件申立ての適否は、結局のところ、販売場移転の許可により、旧販売場についての免許及びこれに付された条件が、同一性を保つて新販売場についても存続していると解されるかどうかに帰着する。

そこで検討するに、本来、酒類販売業の免許は販売場ごとに免許を受ける対場所的許可処分の性質をも有するものであるが、他方、販売場移転の許可については、法文上、免許の要件のうちの一部だけが許可の要件となるという構造になつており、また、法令上も実務上も、移転の許可に際して新たに条件を付することは予定されておらず、さりとて、移転の許可によつて無条件の免許となると解することも許可権者の意思に反し不適当である。すなわち、移転先の所轄税務署長としては、移転先の地域的事情等を考慮して、免許に条件を付する必要がなくなつたと判断すれば、これを緩和し、又は解除すればよいし、新たに条件を付する必要があると判断すれば、移転を不許可としたうえ、新たな免許の申請に対して条件を付して免許を与えればよいのであつて、これらの措置が採られなかつた場合には、移転の許可がされると、免許及びこれに付された条件はそのまま新販売場についてその効力が維持されるものと解するのが相当である。

したがつて、販売場移転の許可がされると、旧販売場についての免許はこれに付された条件と共に新販売場についてのものとなり、移転先の所轄税務署長がその業者に対して酒税法上の監督を行うこととなるのであるから、本件においては、原告が受けた酒類販売業の免許に関する権限は被告から被申立人に移転し、免許条件の緩和又は解除の権限も被申立人が有することになり、これに伴つて本件訴訟の被告適格は、被告から被申立人に承継されるものというべきである。

よつて、本件申立てを理由あるものと認め、行政事件訴訟法七条、民訴法七四条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 白石嘉孝 安藤宗之 豊澤佳弘)

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